きっとこれは、世界でもっとも美しい物語となるでしょう。誰もが好んで語り継ぎたくなるような、信じがたいほどの光に満ちた、真実の物語となることでしょう。
愛を信じない人も、神を信じない人も、魂を信じない人も、また善を信じない人も、みなこれらすべてを信じることができるようになるでしょうし、悲しんでいる人も、苦しんでいる人も、怒れる人も、それらのつらい思いを手放して、喜びの道へと歩みだすことができるようになるでしょう。
天使や精霊を見たことがある人も、ない人も、その美しい舞や音楽、まばゆい光や、やさしい香りを体験するでしょうし、笑えなかった人も、やさしさを受けることができなかった人も、その重荷をおろして、心から自由を味わうでしょう。
それは、神さまが隠したある秘密についてのお話。
この世に隠された、天国への通路を開く「鍵」のお話。
それは、とても短いお話。
昔からいろんな国のおとぎ話に繰り返し語られて、誰でも知っているのに、本当の意味を見過ごされ、そこにすばらしい宝ものが置かれていることに気づけないまま、忘れ去ったり、飽いてしまったような、そんなありふれた、ささやかなお話。
ほら、こんなお話、みんな聞いたことがあるでしょう?
王子さまとお姫さま、あるとき、二人が出会って、恋をする・・・・。
おきまりの物語というのには、ちゃんと理由があって、繰り返し、繰り返し人々に伝え、その心へ刻みつけたい大切なことが語られているのです。
ある日、王子さまとお姫さまが出会い、惹かれあう・・・
すると、まるで春の花の蕾の上を風が撫で、次から次へと開花が伝播するように、人々の心に、突然ふわりと春の風が吹き、人から、人へとあたたかなものが伝わりはじめます。
なぜか不思議と、まるで曲が変調して、ちょっと高いキーにでも移ったみたいに、あるいは色彩の明度が上がって、急に透明感が増したみたいに、それぞれの人の胸にふうっと、ほんわり、明るいものが湧きあがるのです。
じつは、この二人が出会うのは、現実のこと。
この世界で起きる、ほんとうのできごと。
そして、この二人が愛し合うとき、地上のすべての人々の心に、やさしい愛の光が満ちる・・・・神さまは、こんな美しい仕掛けを、わたしたちの世界に埋め込まれていたのでした。神の救いを、王子さまとお姫さまのふたつの命に分かち、誰の手も届かない場所へ、愛し合う者たちの心の中へ、神さまはその奇跡の鍵を、そっと隠されたのでした。
時が来ると、二人は出会います。二人は神さまの許婚ですから、かならず出会うことになっています。この世に誕生する時から、星々が約束をする正確な時間と場所に、二人は別々に生まれ、そして魂は手を伸ばし合うように互いを探し、出会うのです。
その出会いがかなった瞬間から、地上では小さな変化がはじまります。
二人は強く惹かれ合い、少しずつ心を重ねてゆくでしょう。神は愛といわれる通りに、二人は愛をまなぶことによって、神をまなび、愛が深まるほどに、神との関係を深めて行きます。二人が互いを信じ、互いを与え合うたびに、ほかの人々の心にもあたたかい光が灯り、悲しいできごとに泣き暮らしていた人の涙が、ある日ふと晴れます。孤独にいらだっていた人のきもちのトゲが、ある時ぽろりと取れて落ちます。
神さまは、こうして愛そのものを救済の鍵にし、同時にご自分自身を鍵として、結ばれる男女の命に分け、託されたのでした。それはたいへん巧みで、賢明な、そして美しい神の知恵でした。
二人が恋を始めると、敏感な人の中には、世界が変わって行くのを肌に感じはじめる人が現われます。まるで黄昏の町の家々の窓に、ポ、ポ、ポと光が灯ってゆくように、ほんのりとした明かりが世界に点ってゆくのです。それは、まだ、まだ、小さな弱い光。でも、たしかに人々は、今日の明度に変化を感じます。
実際、人々の心には、つながりあう命の元からわきあがるように光が伝わって、その光は知らないうちに、世界のすみずみへと広がっているのです。気がつきはじめると、まるで心地よい音楽が、窓から窓へと流れていくように、心が解けて、やわらかく開かれるように、世界と自らが新しくなっているのを感じることができます。それは、とても、とても不思議な感覚で、自由で、そして安らかな気持ちです。
天国の扉を開く鍵は、こんなふうに、ある王子さまとお姫さまの命の中へ隠されました。でも二人と言っても、それは世界に一組と限られているわけではありません。王子さまとお姫さまとよばれる、この運命のふたりが、世界のどこに、はたして何組用意されているのか、それは天使でさえも、神さまから知らされていない閉ざされた秘密なのです。
それに王子さまとお姫さまと言っても、どこかの国を治めているとか、立派なお城に住んでいる人たちのことを指しているわけではありません。なにをする人なのか、どんな暮らしをしているのか、いくつなのかということすら、誰にもわからないのです。政治的、物質的、あるいは霊的などんな力にも利用されないように、神さまはその鍵を、とてもとても巧みに隠されたのでした。
そして、二人があらゆる試練を越え、分かれた魂をひとつに結ぶことができたとき、その時こそ神さまの仕組んだ鍵は回りだし、円い虹が世界を包んで、地上に天の楽園が現れます。
いったい誰が、その瞬間を予測することができるでしょう。いったいどの二人が、その鍵を持っていると知ることができるでしょう。神さまなら当然、誰にも手の届かないところへ、思いもよらないところへ、それをお隠しになるはず。あらゆる悪だくみから守れる場所へ、悪い知恵の届かない場所へ、きっとお隠しになるはず・・・・。
王子さまが愛していると言うたびに千人が救われ、お姫さまが愛していますと言うたびに千人が目覚めます。なにも知らずに暮らす人々は、自分たちの胸に湧く、なんとも言えないあたたかさを感じ、不思議に思うことでしょう。それは、知らせです。春の訪れのような、しるしです。
人は、奪い、争い、自尊心を満たすことよりも、そのやわらかく、あたたかなものを分かち合いたいと思うようになるでしょう。見えないものが、今や目に見えるように、聞こえないものが、今や耳に聞こえるように、人は愛を感じるのです。それは、不思議な、大きなよろこびとなって、人々の心に湧き上がるでしょう。
王子さまが愛していると歌うたびに千人が清まり、お姫さまが愛していますと歌うたびに千人が恵みを受けます。人々は、自分たちの胸に吹く、なんとも言えず涼やかな風を感じて、不思議に思うことでしょう。それは、証し。人々の心が開かれてつながってゆく、歌の通り道ができたのです。
王子さまは祈ります。二人が離されることがないように、と。お姫さまも祈ります。二人が永遠に共にいられますように、と。
神さまは約束されます。二人は天地。二人は月日。二つの存在によってあらゆるものが創られ、二つの心がひとつとなる場所で働くものが、神の力。どうか、互いを愛するように。愛し合うまことによってしか、この鍵は回らないのだから・・・・と。
この王子さまとお姫さまがお生まれになった国は幸いです。平和はその国からはじまるからです。また、王子さまとお姫さまがともに訪れる国は幸いです。祝福は惜しみなくその国に与えられるからです。
おぼえていてください。世界を平和で美しい天国に変え、栄えさせるこの鍵。それはあなたが持っているのかもしれません。すでに出会い、いっしょにいる、あなたたちが持っているのかもしれません。
恋がはじまった音がすると、天使はどこへでも駆けつけます。天使たちは、天国の鍵を見つけるため、献身的に恋人たちに協力します。
忘れないでください。これは、もうすぐ起きるできごとのお話。
王子さまとお姫さまが出会い、愛し合う・・・どのおとぎ話でもきっと、最後に二人は結ばれ、国中の人々、世界中の人々は喜びに満ち、幸せになるのがおきまりのお話。それは、必ず思い出してほしい真実だから。きっと信じていてほしい約束だから。
それは、平和なる世界を願った神さまが、わたしたちの命に与えてくれた、もっとも単純で、美しく、尊い仕組み。回し損ねた鍵を回すため、二人は何度も何度も生まれ変わって、とうとう、もうすぐ、その鍵は開かれます。
その時、愛を信じなかった人も、神を信じなかった人も、魂を信じなかった人も、そして理想を信じなかった人も、みなこれらすべてを信じることができるようになり、悲しんでいた人も、苦しんでいた人も、怒れていた人も、そのつらい思いをすべて手放して、喜びの道へと歩みだすことでしょう。
そうです。これは、神さまが授けてくれた命の鍵のお話。
そう。遠くない将来、わたしたちに現われる天国の約束のお話。